ドイツ兵の困った「骨休め」

10月下旬に、ドイツの大衆紙「ビルト」が掲載した特ダネ写真は、政府関係者と国民に強い衝撃を与えた。

アフガニスタンに平和維持軍として送られているドイツ連邦軍の兵士たちが、頭蓋骨を持って記念写真を撮影していたのである。

ジープの前部に取り付けた鉄のポールの先端に、頭蓋骨を突き刺している兵士、装甲車のライトの脇に頭蓋骨を取り付けた兵士もいる。

土中から発掘された骨を人間の形に並べて、頭蓋骨にピストルを向けている兵士もいる。

写っている兵士たちは、人物を特定できないように、新聞の編集部によって目を隠されているが、みな学生のように若い。

メルケル首相は、「遺体をもてあそぶのは、絶対に許してはならない行為だ」として、国防大臣に対して、徹底的な調査と関係者の処分を命令。

国防省は、写真に写っていた山岳部隊の兵士ら2人を、除隊処分にするとともに、兵士たちへの教育を改めて行うことにしている。

 最近ドイツ連邦軍では、コンゴ、ソマリア、レバノン沖など外国の危険な地域で平和維持任務につかされる部隊が多い。

特にアフガニスタンでは、ここ数年治安状態が悪化しており、爆弾テロの犠牲になる将兵の数も増えている。

2001年には崩壊寸前と思われたイスラム過激派、タリバンのゲリラは、最近再び勢力を盛り返している。

今回のスキャンダルは、長期間にわたり、家族や恋人と別れて、娯楽もない辺境で従軍する若者たちの中には、道徳心を失うものが出てきていることを示している。

荒涼とした前線での緊張状態が続くと、頭蓋骨を持って記念写真を撮ることが、死者に対する冒とくだという感覚を失ってしまうのだろう。

戦場で人々の神経が異常をきたすことは、第二次世界大戦やベトナム戦争でも、報告されてきた。

これまで延べ20万人のドイツ兵がアフガニスタンに派遣されてきたが、一部の不心得者のために、連邦軍全体に対するイメージが悪化するのは残念である。

国防省は、生活条件が過酷な地域で長期間勤務する際に、どのように平常心と精神の安定を保つかについて、兵士たちに徹底的に教育を行い、現地に派遣するカウンセラーの数を増やすべきだろう。

兵士たちも気晴らしを必要とするのは理解できるが、こんな気色悪い「骨休め」は願い下げである。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

保険毎日新聞 2006年12月